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西沢監督は鬼だった!?

吉田『湘爆』がスタートした時に、西沢さんがアニメーターの人たちに何か指示した事とかありました?技術とかそういう心構えとかじゃなくて、「『湘爆』だからここは気をつけろ」のような。

西城西沢さんは人に任せるタイプなので、あんまり細かい事は言わなかったですね。西沢さんがアニメーターにこだわりを持って何か言った事あったっけ?

佐々木西沢さんは、動きとかに関しては全部西城さんにお任せするみたいな感じだったから。構図にしてもコンテで決めちゃうと、レイアウトとか原画に細かくダメ出しはしなかったと思う。タイミングとかに関してもアニメーターさんが付けてきたものは基本あんまりいじらなかったです。なので自分が途中から演出やるようになった時には原画から「オメーは手を入れすぎだ」って怒られたんですけど(苦笑)。

加々美でもたまーに一生懸命描いたけど切られたってありますよ。「あ、無い!」って。西沢さんに聞いたら「アニメーターってのは自分が担当したシーンを例えば10の力で一生懸命ガーっと描こうとする。でもアニメって緩急があるので、全部のアニメーターが10の力でバーっとやっちゃうとガチャガチャってなっちゃう。ちゃんとチカラ入れてワーってやるところと抑えるところのバランスがあるんで、切る時は切るよ。ごめんね」って事は言われました。

佐々木図 1:使用されなかったカットまさに[2]の時のこれ?編集が終わってみたらカット丸ごと無くなってるとかってあって。<図1>

為我井これ。欠番になってる。

佐々木こんなに気合入れて描いた所でも切っちゃうんだと思ってびっくりした。ただ、実際に自分が演出をやってみると「このカットは…」って切ったりするんだけど。

西城切らざるを得ないって所が出てくるよね。

佐々木西城さんはご自身で演出もやられるじゃないですか。以前「アニメーターが描いたものを使わないのはもったいないから、使わない絵が出ないようピッタリ仕上がるように作って繋げて、これなら編集しなくてもいいだろう…と思ったけど、やっぱダメなんだよねー」っておっしゃってた。

西城編集からクレームが来るんですよ。「仕事が無くなる」って(笑)。

やっぱり欠番が出るのって、描いた側からするとショックなんだよね。

加々美「もっと強くやってやろう」って膨らまして描いてしまって、結局コンテ意図をちゃんと汲んでなかったかもしれないって事はあるもんね。もっと抑えた演技なのに、勝手にワーって盛り上げちゃったって場合も。

佐々木逆にペーペーの人間でも「もっとこうした方がいいんじゃないですか」とかガンガン言えましたね。それこそ[2]のラストで、何かひとつキメ絵が欲しいって西沢さんが言ってた時に風間くんがポロッと「流れ星を流したらどうですか?」って。都志子と江口の別れのシーンが終わる時に流れ星がスーっと、っていうのは風間くんのアイデアだったり。

風間そんな事、言いました?(笑)

西城そういうのって忘れちゃうよね。

佐々木色んな事を柔軟に取り入れる反面、ご自分の中では「そこはいらない」みたいなものもしっかりあったんじゃないかなあ。

吉田監督は鬼になんないとやれないね。

佐々木これは美術さんが聞いたら怒る話になっちゃうけど「5」のクライマックスの倉庫街で、なるべく素の背景を見せたくないって。あそこ全部、常に光がバーっと射してる感じになっててホントに光の中で戦ってるみたいになってるんですけど、本当は下に暗い倉庫街が結構描き込んであって。それを「見せないようにしろ!」とか言って(笑)。

吉田透過光で。かぶっちゃって。黒澤明みたいだね。

佐々木結構、近いところあります。

吉田棚の中の書類まで全部書いてんのか!ってね(笑)。

佐々木割と平気で鬼な事を。あと[6]の時に、それこそ加々美さん担当の、桜井のバイクを直してる所。江口の家を回り込む…

加々美ああー、あったねー!

佐々木手描きで一軒家にカメラが寄りながら回り込む絵を作画で描かせて、それを全部背景にしろっていう。

加々美桜井の主観というか視界でね。今ならもうCGで作り込む内容のカットでしょうけど、当時はCGなかったから。ひとつひとつカットの角度が変わっていく絵を描いて。

佐々木美術の坂本さん(※1)が「全部背景で描けって言われてもそんなんできないぞ!」っていうのを、「何コマの動きにしたらこのぐらい目についちゃうから、どのぐらいの描き込みにすればいいか」って相談をした覚えがある。あの頃、西沢さんは背景を動かすのにちょっと凝る時があって。[4]の曇天から青空にパーっと晴れる時にも、その雲の動きを動画でやりたいって。あれも確か大倉さん(※2)が雲がバーっと流れるのを描いて、それを全部背景にしたのかな。

加々美コンテの内容が大変なので作画作業も大変なんだけど、完成画面を観ると「うぉー」って決めドコで使うから、効果的なんですよね。

吉田先程おっしゃってた、西沢さんの緩急みたいな感じですね。

佐々木 [2]のラストで、台風が来てて冠水してる大波の中をバイクが…あれ三井さんだったと思うけど、結構絵描きに求めるものが大きくて。「え、これ描くんですか?」みたいな。

でも、あれもすごくてさ。坂本さんのデザイン力だったと思うんだけど、ヤシの木とか、動いてないんだけど、暴風雨で倒れたような部分を描く事で動きが出てて。すごくいい感じでね。感動した。

佐々木坂本さんの絵ってフィルムに撮った時にコントラストがきっちりしてるから、光がポーっと灯ったみたいに見えて。当時流行りのネオンライトとかすごく…

効果的にね。使われてたね。

佐々木それをポップな感じで描くのは、美術さんとしては大変だっただろうなー。ちなみに[6]まで坂本さんがやった後に[7]で別の方に変わるんですけど、その時に「もう描いてくれる背景さんが集まりません」って言われて。それでやむなくスタイルを普通のリアルものに変えたんですけど、行さんがその辺を分かってたので[8]でうまい加減に戻してくれたんです。日常芝居の所とイメージシーンみたいな所を意識して描き分けてくれて。

ホント僕にとっては馴染みのある世界観で。楽しくて。

佐々木最終巻の時に「卒業しちゃったから、[1]の振り出しの時の世界にもう一回戻した絵にしよう」って。あれ綺麗だったよねー。

吉田最終巻って聞いただけで僕はもう泣きそうになってるんですけど(笑)、あの終わっちゃった感は素晴らしかったもんね。

佐々木西沢さんは“暴力”でもスポーツチックな、カラっとした青春ものにしたいっていうのがあったから、かなり重い事をやってるけど陰湿な話にはならなかった。

吉田今はもう学校が変わっちゃってるけど、あの時は学園漫画っていう素材が全盛で。西沢さんは「喧嘩のシーンもあるけど、根底は青春漫画だよ」っていうのを、誰より最初に深い所で掴んでくれてたんですよ。

加々美絵は楽しくて明るいんですけど、ちゃんと暴走族も肯定だけじゃないっていうか。「マズイ事もしてるんだ」みたいな描写も入ってるからすごいなって思って。

吉田ちゃんと女の子に批判もさせて。

加々美そうなんですよね。あのバランスが。生々しい部分があって、でも楽しくて、みたいな。すごく魅力的になってるかなって。

吉田これを読んでる人たちには繰り返し言いたいけど、アニメは漫画家のものじゃ無いからね。原作は僕だけど、アニメの方々がすべて最初から考えて、決めて、選んで、省いて作ってくれたものですからね。だから今でもやっぱり見て泣くもんね、自分のものでは無い感覚で。自分にヤキモチも焼くし。「こんないいアニメ作ってもらってすっごい幸せだなあ」って。

佐々木僕らもアニメ長いですけど、原作者の先生にここまでアニメで出来たものを喜んでもらえるっていうのもなかなか無い。

そうですね。

吉田泣きたくなったらアニメの『湘爆』見ますね。なんかもう羨ましい、『湘爆』が(笑)。自分で描いてて何ですけど(笑)。

佐々木アニメの『湘爆』って毎巻、原作の色んなエピソードを集めて西沢さんが再構成してるじゃないですか。「え?これとこれが一緒の話に入るなんて!」みたいな、吉田先生の方で抵抗を感じるような事って無かったんですか?

吉田それホント無い!これうまいな!と思った。見事!すごい編集能力だと思いますよ。最後まで組み合わせがちゃんとしてるじゃないですか。しかもひとつのクライマックスがあるんですよね。違うものを繋げても匂いというか質量みたいなものを感じ取れる。『湘爆』ってギャグで終わっちゃう回と、ちょっと泣かせたりする回と、ものすごい喧嘩で終わる回やシリーズとかがあって、実は三本分ぐらいの物語がひとつの連載の中に入ってるみたいな形なんですよ。僕もそういう喧嘩のシリーズの時は割り切って、普段描いてるようなギャグとか恋愛の甘やかさを封印して描いてるけど、そういう所を西沢さんがうまく原作から繋げてくれましたね。感心してましたよ。描き分ける方も大変だったと思いますけど。

佐々木構成やってる時間はすごく悩んでましたし、ものすごい量のメモを書いてました。

吉田西沢さんの一番やりたい事が最後に伝わる。だからすごいんだ。

佐々木 [2]のラストで渚が「あなたが好き」って窓に書くシーンの原画を、西沢さんが「お前これでいいと思ってんのか」ってダメ出ししたっていうのを覚えてます。

吉田渚が窓ガラスにこう書く…最後の電車の所?

佐々木そうです。くしゃって泣きながら。

吉田そこ、めっちゃ泣く所だよね!

佐々木そこの芝居、一度上がってきた原画を「ダメだ」って戻して、焼き鳥屋連れてって「ここはどういうシーンだと思ってるんだ」って切々と説いてたらしいんです(笑)。

吉田あそこのシーンはね。渚の人差し指が…

佐々木クニって曲がるんですよね。

吉田そうなんです。あれが女の子なんですよ。男の第一関節はあんなに曲がりませんよ(笑)。もう感動しましたね。渚ってこんな感じなんだって。

佐々木作画されてた方は今でいうスーパーリアルアニメーターの「ハシり」なので。映画『銀河鉄道999(※3)』のラストシーンとか描かれてる人なんですけど。

吉田あの指と涙です。原沢の涙なんかどうでもいい(笑)。雨でほとんど分かんないんだから(笑)。

佐々木でも、あそこのカットワークに原沢の泣いてる顔のアップを入れるのも西沢さんだなーと思う。

西城ディズニーアニメでも、すごい真剣で危機一髪のようなシーンにほんのちょっとだけギャグが入ると、すごい引き立って笑いになっちゃうんですね。例えばお葬式の時に本当は笑っちゃいけないのに、幼い子どもが坊さんの頭を指差して「禿げてるな」と。笑っちゃいけないのに、もうみんな笑っちゃう。西沢さんもそういう所がちょっとあるのかもね。センスというか。

佐々木『パタリロ!(※4)』とかもやってらした方ですしね。振り幅が大きい中での取捨選択がすごくうまい方だったのかなあって。

西沢さんって真面目なんだけど、遊びもすごくやる人だったじゃない?そういう所が、遊び心とかもちゃんと分かっていて。

吉田ギャグを入れるタイミングの緩急がすごい。

佐々木絶妙な所でギャグ入れてくるっていうので思い出すと、[4]で江口や権田がビッグスウェルが大変だーっていう時に、神社でお祈りしてる瀬島がちょこちょこ入ってくるとか(笑)。

吉田僕は1コマたりとも違和感を感じた事無いんですよ。たぶんすごいファンなんですよね、アニメの『湘爆』の。僕が仕事場で黙ってアニメ見てひとりで泣いてるのを誰も見てないのが残念なくらい(笑)。

佐々木西沢さんが作ってる途中に「自分は江口を最後殺して伝説にしたい」みたいな事を酔っぱらって言ってたって話があったじゃないですか。あれを吉田先生はどう聞いてらしたんですか?そばで聞いてて「さすがにそれはどうかな」とかって思ったりしつつ…

吉田それは完全にキャラクターが西沢さんご自身に同化してて、自分の中の青春の区切りみたいなものと、各々の化学反応があったんじゃないんですかね。江口はそのまま死んで欲しいっていうのは僕の周りにもいたし。おそらく原作の話で言えば僕の終わらせ方が本当は一番酷(むご)いんですよ。思い出にならないで、どっかで生きてる訳だから。卒業して物語から消えるだけなの。学校はそこにまだあって、違う子が通ってて、物語のフレームから消えてしまうだけなんです。例えば地球を救ったとか、何か印を物語に残したりとかではないので。読者も一緒に卒業しちゃったような虚しさとか喪失感みたいなものを味わったんじゃない?僕は読者が一番ツラいだろうなっていう方法で幕を下ろしたんです。

佐々木今の言葉で言うと別のレイヤーとか別の次元に行っちゃうみたいな。ちょっとメタな感じですけど。だから当時最初に読んだ時はみんな分からなかったっていうか、「どうしてこういう終わり方になったんだろう」みたいな事をスタッフルームでも論議した覚えがありますね。

吉田あくまでも「日常の物語なんですよ」って事が最初から『湘爆』にはあって。そこら辺にある物語が入り口で、そこら辺にある物語で終わって欲しいってのが原作者の意向なんです。だから普通に卒業式を描いて。佐々木さんがおっしゃるように、伝わらなかった所は当時多かったと思います。納得いかなかった読者はすごく多かったと。それは僕が“物語”にしなかったからです。

佐々木最終巻のラストの所、卒業して春休みに津山さんが戻ってきた時の、お祭りが終わった後のくすんだ感じの学校に戻ってきた所から、津山さんの妄想が入って、津山さんが吹っ切れて元の所へパーってなる、その三段階ぐらいに絵のトーンを変えるのがすごい難しかったです。

今はね、デジタルで簡単にできちゃうけど、当時は全部描き分けるからね。

佐々木12年やるだけやって、きっちり終えられて。スタッフ一同もきれいに卒業できたかなっていう気がしましたね。

手描き&フィルムだからこその空気感。

佐々木 [7]の時はバイクから離れて、体育祭で喧嘩するのが違和感もあって大変だったんだけど、今となって見ると楽しいんですよね。江口が石川の股間握って振り回すあたりとかの描写がすごい面白くて。見ていて気持ちいい。楽しい喧嘩っていうのは多分[7]がピークじゃないかなって。

加々美ちょっとお祭りな感じでしたね。本当「スペシャル」って感じの。

西城今の僕らの年代では『湘爆』はちょっと描けないね(笑)。この当時の若さだからああいう熱のこもったものはできたと思うけど、今もうそれぞれ人間が出来上がっちゃってるしね(笑)。みんなにあまり「自分」ってものが無い時代で、それに没頭できる、そういう時代だったから。

風間デジタルだと美化されちゃうっていうかキレイすぎちゃって、フィルムの空気感っていうのが失われちゃうような気が。もし今同じものを制作するとしたら、湘南なり学校なりがすごくキレイすぎて何かちょっと違うようなカンジになっちゃうかなーって。

西城すべてにおいて、あの時代だから出来た名作だね。

風間だから[1]の冒頭の、亀垣さんが描いたあの灰色の所も全部CGになるって事です。バイクも当時は全部手描きで、みんな必死になって、乗ってない人も設計図見ながら必死になって。たぶんそれはCGでモデリングされて、そこにキャラクターが乗っかって360度に…って、何かキレイすぎちゃう。当時はベテランの動画のチェックする人でも、車だったら箱が移動するから分かるけどバイクは分からないんですよ。当時は理論が分からない。だけど口で説明もできないし。だからみんな試行錯誤してバイクとかを描いてらっしゃった。

加々美一番最初に描いたシーンの、石川がホークⅡで来て「なんだやんのかおりゃあ」っていう所は、バイクが俯瞰で、ちょっと正面から回って止まって…

風間ターンするなんて、とんでもない話で (笑)。当時はすごく大変だった。

吉田それはもう絶対に描きたくないですよね(笑)。バイクってすぐエンジンが見えますから一番めんどくさいですよね。

風間バストアップでライトがあって「乗ってます」って絵だったらいいんですけど、全部出てますっていう(笑)。

西城全部エンジンにカバーつけたいね。

風間そうですね(笑)。 

加々美ホント剥き出しだもんね。

吉田漫画に関して言えば、3Dのモデリングをそのまま原稿にデジタルで貼り込んで人間を描き足しても、ちっとも速そうには見えないんですよね。重そうにも見えないし。だからアニメでも手を入れない限りはそのまま3Dで回しても速さとか重さは出てこないんじゃないですかね。

風間 [4]のサーフィンも、今だと波のウェーブなんかは全部CGになっちゃうんですよ、たぶん…。

佐々木 [8]のシゲさんとマコさんが葉山からバーっと海まで公道をレースする所も、CGでリアルな湘南の舞台を作ったら、多分あっという間に終わっちゃうような(苦笑)。

吉田例えばリアルに地元住んでるようなヤツが見てて「あれウチの裏の通りだ」とか分かっちゃう必要は無いじゃないですか。地元のヤツらが「こんな通りねえだろう」って言っても僕らは「ああ良い通りだな」って。「行ってみてえな俺も」って思うようなのがやっぱり創作だと思うんですよね。CGはCGで生かし方があるんだけれど、僕はまだうまい所までいってないんじゃないかなって。

佐々木それこそ手で描いてたおかげで、「愛機」というのかどうか分からないけど、本当に大事に自分でパーツ組み立てて乗ってる愛着のあるマシンだっていう感じにもなってたんじゃないかなって気はします。

吉田先程申し上げたオープニングの主観移動の、あのスリルね。ドキドキするもんね。あれは色んなものが省かれてるからですよね。

加々美確かにあれをCGでやっちゃったら、ただ単にカメラで追っただけっていう形にね。

ゲームと一緒だもんね、そうなっちゃうとね。

加々美そうなんだよね。

吉田見せたいものがハッキリしてますよね、手描きの主観移動だと。すべて動かさなきゃいけないからそれだけ大変だと思うんですけど。

加々美雲もバーって流れるんですよね。本当だったら雲ってずっと動かないけど。

そうそう、本来はね。

加々美あの雲がなんかすごく気持ちいい。デザイン的で。

吉田図 2:「OVA湘南爆走族4オリジナルサウンドトラック」
のジャケット(表)に使用されたイラスト
『湘爆』は原作者の絵が青年誌のような緻密でも無いし。さっき西城さんとLPアルバムの、ちょうど僕が24か25ぐらいの時に描いたイラスト見てたんですけど。<図2>

西城やっぱり先生の絵はね、ハンパじゃないよ。

吉田今比較してしまっても意味が無いんですけど、アニメっぽい絵では無いんですよね。決して動かしやすいとは言えない絵だと思うんですよ、普通の六頭身とか七頭身だし。

西城これも、すごいステキでしょ。これ1枚見てもいろんな話が思い浮かべられるよね。津山さんいないけど…津山さんはどっかにいそうな感じがするし。<図3>

吉田図 3:「OVA湘南爆走族4オリジナルサウンドトラック」
のジャケット(裏)に使用されたイラスト
よくこれを動画にしてもらえたなって思いますね。少年漫画ってもうちょっと丸っこくて、やんちゃな動きが多いんですけど、ただぼっーと立ってるだけの画面が結構あるんで。『湘爆』は動きがあんまり無い漫画だから。

佐々木江口たちの髪の毛が大変だったっていうのが…

吉田それ初期に伺いました。24歳ぐらいのリアルタイムの時に。「どうなってんだお前これは」って(笑)。

佐々木線の量とか今見返してもやっぱ多いしね。西城さんコダワリの津山さんのサラサラヘア、あれをちゃんとトレーズできる動画の人も今だとなかなかいないんだろうなあって。

吉田原作でこの数だもんね。僕も漫画描いてて一番嫌になっちゃったのは髪の毛の線の数ですよね(笑)。

佐々木やっぱ描いてて、うんざりしてくるものですか?

吉田これと原沢のパーマも全部描いてて。アレと江口が一番嫌でしたね。一本一本引くのがすごい時間かかるんですよ。

加々美 [1]の時でしたっけ?吉田先生がアニメの設定画っぽい、説明みたいな資料を描かれてましたよね。確かそれを見て「リーゼントこうなってんだ」って確認したりとか。

吉田最初に説明する段階で出させていただいて。

西城こういうアングルって、なかなかアニメーターは描けないよね。顔半分隠しちゃうってのはね。

加々美確かにそうですね。

西城どうしても顔見せたいし。大胆な構図は思い浮かばないですよね。

吉田僕の人生通して一番絵がうまかった頃ですよ、本当に。シンメトリーが描けるようになったとか、線がキレイになったとか、技術が上がっても逆に無くすものもたくさんあって。一番描きたい気持ちが伝わってたのはこの頃の絵ですね。

佐々木図 4:湘南爆走族「明日の敵のBALLADE」より後ろ姿もそうなんですが、夜明けの紫の海辺でキャラクターが全部シルエットになってる、キャラが黒ベタっていう絵を結構お描きになってたじゃないですか。あれがすごく好きだったです。<図4>

吉田さっきフィルムの話が出ましたけど、僕は人間の目ってフィルムが一番近いと思うんですよ。例えばトンネルから明るい外へ出たら真っ白に見えるじゃないですか。そうすると何も見えていないのが正解で。野球もネット裏から見てて、ネットは頭の中から消えるじゃないですか。あれが僕は人間の目だと思うんで。今はドラマもビデオで撮っちゃうから、ピントが手前から奥まで全部当たってて、ライティングもいらないじゃないですか。僕はそういうのは人間の目じゃ無いって思うんです。だから夜明けに遠くに友達がいたら絶対にベタに見えると思うんですよね。ベタにしか見えないですよ。映画でもスピルバーグとかあの辺の人たちは、デジタルで撮ってもフィルムみたいな効果をちゃんと出すもんね。

保存しておかなきゃもったいない!

加々美図 5これ、当時打ち上げで吉田先生にいただいた…<図5>

うわー、すごいな。

加々美お願いして描いてもらったんです。

佐々木しかし、よく残ってて。

加々美いやもう、大事に保存して。

吉田恐れ入ります。ありがとうございます。

佐々木吉田先生がスタジオにいらした時の?

為我井いや、これたぶん[4]の打ち上げで。東京湾クルーズだった。

佐々木え、ありました?

為我井船で。たぶんその時。

加々美確か吉田先生が費用を持っていただいた船上パーティー。

吉田佐々木さんいなかったの?

佐々木なんか記憶から今スポンと抜けてる(苦笑)。

為我井そこで僕、先生に色紙もらった。

佐々木大体打ち上げとかって、ひたすら「ありがとうございました」って挨拶ばっかりして終わるから…。

加々美皆さん、色々資料をちゃんと持ってて。

佐々木みんなどういう家に住んでるんですか?(笑)自分はどうやったら収まるんだろう…って(泣)。漫画と資料に埋もれて死ぬなって思ってて。

為我井原画類はもう捨てちゃったからねー。

吉田アニメ関係のこういったものって、行き先が決まって無いから、国がちゃんと全部保管した方がいいよね。所有権を放棄するような形ではなく預かり収蔵みたいな形で。漫画の原稿は国が少し動いてるって話を聞くんですよ。

風間原稿は、最終的には吉田先生の所に戻るんですか?

吉田もちろん僕らが描いた原稿は本来は戻ってくるんですけど、今までは暗黙の了解で出版社に置いてたんですよ。後から本を出すかもしれないし。ただ近年トラブルが漫画家と出版社の間にあって、紛失を怖れて全部返してくるようになって。僕が描いた量がとんでもないんで、もう全部捨てようと思ったんですよ。今はデジタルだし。僕に万が一の事があったら管理する人も大変なんで。そしたら今、秋田県の美術館を筆頭に原稿を保存する動きがあって、そこに国も関与しているらしくて。ただアニメのこういった資料も国がお金を出して保管しておかなきゃいけないよね。僕はすごくそう思う。赤松先生に請願するしかないな(笑)。

佐々木図 6:西城氏による原画久しぶりに見て思うけど、ナマのものって違うよね。

吉田これ、すごくない?「これは下描きしてないんですよ」「この線は漫画家には引けない線ですからね」って僕が学芸員になってちゃんと説明したいぐらい(笑)。日本人のモノづくりの技術ってすごかったんだなって思うよね。<図6>

加々美紙ものですから段々と劣化していっちゃうんで、ホントきちっと保存ができないかなあと思うんです。確かに。

西城それちょっと、1枚僕のスマホで…。<図7>

吉田図 7:西城氏による原画それ西城さんご自身の絵じゃないですか(笑)。

風間え?これ西城さんがお持ちのものじゃないの?佐々木くんが持ってたんだ。

佐々木スタッフルームを片付けた時に残ってたんだよね、きっと。それを自分が…

加々美もう西城さんにお返ししなさいよ(笑)。

西城ちょっとそれ、写真撮ってくれる?

佐々木ていうか、ホントにお渡しするべきではないかと(笑)。

子供たちに伸びてもらいたい。

佐々木最近は特にアニメーションが好きでもなくてそんなに観ないけど会社の業績がいいので入ってきました、みたいな人が増えてるって。

加々美あー、いるんだ。

え?今はもうそうなの?

佐々木企画とかに回されると「外れ」だっていうぐらいの感覚らしいから。

風間自分が面接してた時はプロデューサーになりたいとか企画になりたいっていう人も多かったけど、でもある時期から、営業して今ある会社のコンテンツを海外に売りたいって人が増えて。

加々美今はもうサブカルチャーなのか?って感じだもんね。

メインカルチャーでもいいんじゃない?ってくらいになっちゃってるよね。

為我井周りの人が何をしてる人なのか、どういう事をすると褒められて、こういう事をすると怒られてっていうのが、スタッフルームという形だとそれが勉強できるんだけど、今は個々の仕事って形になっちゃってるんで。そうするともう周りの人が何をしてるのかも分からない。「私は仕事をしましたから次の仕事どうぞ」っていう感じになっちゃってて、一つのものを作るって…

うん、じゃないよね。

為我井一つのものを作るって事を考えない人たちの集合体になってて、ちょっと作り方が変わっちゃってるなっていう。

加々美割り切りすぎちゃうっていうかね。自分の役割をね。

ドライだよね、ちょっとね。

風間何か文句言えばパワハラだ!とか言われちゃうし(苦笑)。

吉田何処も同じ秋の夕暮れだよ(苦笑)。うちらの業界も似たようなもんです。僕はいつも言ってるんですけど、ネームってあるじゃないですか。あれを見て良い悪いを判断する国家資格なんかどこにも無いんですよ。だから編集者が「このネームはいいから売れる」とか「このネームは面白くないから売れない」っていう根拠は何だっていつも言うんですよ。絵が入って初めて漫画って生きてくるわけだから。これは漫画業界だけの話だけになっちゃって恐縮ですけど、今の出版社や編集者はネームがすべてなんですよ。マルチョンしか描いてないものが上までいって、最終的に編集長が「うん、おもしろい!」って。そんなワケないだろ!って。だって絵が入ってないんだもん。僕はネームをやらずに何にも考えないで原稿1枚1枚描くんです。『湘南爆走族』もそうやって描いてきた漫画で、扉描いて1枚目描いてる時には何の話か全く考えてない。

西城それ、降りてきてるとしか言いようがないよね。

吉田そうですね。トランス状態でずーっと描いていって、24枚ぐらいの、だいたい18枚ぐらいにいよいよ編集者を呼んで「これは一体どういう漫画かね?」って(笑)。残り6枚ぐらいで読んでもらって聞くんですよ、「僕は何を描こうとしてるんだ?」って。そうすると「要するに恋って切ないよねって事を描こうとしてるんですよ」とか言語化してサジェスチョンしてくれるので、「あ、僕はそういう事が伝えたかったんだね」って残りを描いていく。だから編集者の役割はすごく大きかったですよね。読者からよく「先が読めません」って言われましたけど、そりゃそうだよ、僕が分かんないで描いてるんだから(笑)。

佐々木まさにライブ感覚。

吉田ストーリーテーリングしている時に絶対共通してるのは、そのラフの段階で責任者が「うーんおもしろい」とか「これは売れない」っていうのは結局は見た事があるかどうかだけなんですよ。類型の中に当てはめて「見た事ある」から、それがよくなぞられてるねっていう場合に「おもしろい」って自信を持って言える。ただ類型に無いものに関しては「おもしろい」「つまらない」の分類でいくと「よくわからない」っていう判断でボツにされてしまう。絵が入ってるものを、その圧力みたいなものを感じないで「おもしろい」「つまらない」を判断していくと、漫画業界も類型の中にハマった、どっかでみた安心感のある、似ていて差異の少ないものだけが書店に並んで行くっていう。そういう現象はすでにもう地滑り的に起こってる。だからアニメも絵の均質化っていうか、均等化ってうか。既視感がね。まあ漫画が一番激しいですかね。どっかで見た事があるからおもしろいんだっていうふうに、今はもうすり替わってしまっている。

要は安心できるものになっちゃうって事ですよね。

加々美本当は逆じゃないんですかね?今までこんなの見た事無いって驚きとかね。

そうだよね、ホントはそっちの方がね。

西城議員さんがよく「前例が無いから」っていう、あれですよね。

吉田そうですそうです。前例主義。

西城そういう企画外のものをね、作ってもらおうと思ってこれから始めようと思ってるんです(※今秋開催予定の『アニメキャラクラブ東久留米教室』 詳細は本文後の紹介記事を参照)。

吉田後進の人たちを集めて、小さなレクチャーみたいな事をお始めになられるんですよね?それは本当に素晴らしいと思うんですよ。

西城あまりにも似たキャラっていうかね。「これもどっかで見た事あるな」「これは何かに似てる」っていうものが多すぎるので、そういうもの一切頭から消してもらって、新しいものを。

風間ゼロベースで。

吉田やっぱりキャラ作りに重きを置くんですか?

西城自分がそれで成し得なかったんで。進化ってのはやっぱり若い人が新たなものをやっていく事だから。僕らは手伝い。それだけで。考えは個人のものなんでね。

吉田そうだよ。あの子たちの一ヵ月は俺の五年だもん(笑)。

西城今の情報量はね、例えば原始時代の人間の一生分の情報量と今の人間の一日分の情報量が同じだと。それで江戸時代の一生分の人間の情報量はね、今の人間の一ヵ月分。それぐらい今は情報量が多い。まあ確かにそうですよね。

吉田江戸時代ぐらいが一番幸せだねー(笑)。

西城やっぱり子供なんですよね、伸びてもらいたいのは。「百匹目の猿」の話じゃないけど、芋を最初に洗い始めたのが若い雌猿。次は普通の雌猿。その次は若い雄猿。とうとう何もできなかったのが普通の雄猿。じいさんですよね。だから国会議員なんかほとんど何にも出来ないじいさん猿みたいなもんですよね(笑)。そういう意味で若い子たちに勉強してもらいたいなと思ってるんです。数年前に病気をして色んな、例えば今は杖を使ってるけど段々と自分の足で歩けるようになった経験をしたので、昔だったらそういう動きをアニメに有効に使えたんですけど、こういう経験もありがたいなっていうので一冊、本も書いたんです。(※6)

佐々木そういう事もあるから、なおの事、若い人にっていう気持ちにもなるのかな。

吉田僕の年代も自然に考えますよ。おそらく一流の人になっちゃった人の話を10人の子たちにしても、たぶん10人全員ほぼ分からない。もっと噛み砕いて、下世話な言い方をすると、平べったく分かりやすく誰にでも伝わるように言わない限り本人たちの理解力は追いつかないんだけど、でもひょっとしたら間違えて1人、分かる子がそこに入ってるかもしれないっていう可能性に賭けたいなっていう所はあるんですよ。基本は事実よりも哲学みたいな所があるじゃないですか。例えば浮世絵の髪の毛の生え際の彫り師がそうですね。あれは10人が修行しても結局1人しか美人画の生え際を彫れる人がいないって、それは神様が選んだ技術みたいなもので。ただどんなに努力しても手に入らない世界であったとしても「生え際を彫るんだ」「美人画を彫るんだ」って修行した人たちは風景が上手くなったり他の所に技術を生かしたりすると思うし。そういう意味では10人に分かる言葉で言う必要はあるんでしょうけど。60歳を越えたら後進に何か礎になるような事を残していきたいなって、僕でさえ思う事はあります。

佐々木裾野が広くないと、そういう人が出てくる土壌も無くなっちゃうっていう事ですよね。

『湘爆』はみんなの勉強の場だった。

佐々木では時間も押し迫ってきたので最後に皆さんから一言いただけますでしょうか。

僕はここにいる同期の為ちゃんや憲ちゃんと同じで[2]から背景の方でお手伝いさせていただいて、ずっと坂本さんのデザイン的なスタイルっていう、美術の凄さっていうのも『湘爆』で経験させていただいて、[8]から自分が美術を請け負う事になりまして。湘南は自分の高校時代の生活範囲だったんで、思い入れもあって、最高に楽しい作品にめぐり会えて、それを最後までやらさせていただいたのは自分にとって財産だなと思ってます。良いスタッフみんなでやれて。西沢さんはリアリティにこだわる人だったんで各話ごとに必ずロケハンに行ったんですね。[8]では湘南や逗子マリーナ、[11]の修学旅行の話では京都へ行って一泊してロケをしたりして。作品作品にみんな愛情込めて作ってたので、その中で充実して楽しんで作れる作品だったなと思います。ホントに良い作品をありがとうございます。感謝しています。

吉田ありがとうございました。私こそ。

加々美先程とちょっと重複しますけど、本当に初めて国内できちんと完成した形で観られる作品として関わったのが『湘南爆走族』でした。頑張りましたし、あと運がいいなと思ったのは、こうやって初めて関わった作品で、原作も素晴らしくスタッフもしっかりやってくださってて、また西城さんが分かりやすく教えてくださったので、新人である自分にとってはすごく刺激になったし勉強になりました。その経験というか思いがあったんで、自分が作画監督になった時にただ単に直して「はい」じゃなくて、「こういう形でこういう理由があってこういう絵にしました」って、ちゃんと分かりやすく相手に伝わるような修正を出すよう心がけるようになりました。それはやっぱり『湘爆』やったおかげですね。自分も後進に対して育ってほしいなって思いでやってると思うんで、そういった意味でもホント良かったです。アニメーターは自分から「こんな仕事やらせろ」っていう形態じゃなくて、来た仕事を受けるっていう事が多いので、偶然なんですけどすごく幸運でもあったなと思いましたね。思い入れの強い作品になりました。皆さんには感謝しかありません。ありがとうございました。

西城ひとりでも、そうやって僕のやった仕事がね、多少なりとも継承してくれる人がいて、すごい幸せです。

加々美こちらこそ。ありがとうございました。

為我井皆さんと全く同じ事しか言えないというか、重複になってしまうんですけど、最初に合作から次の作品に行く時に「お前どこ行きたいか」って言われて、初号で[1]を見ていたので「じゃあ『湘爆』」って言って。それで『湘爆』のスタッフルームに入れて新人の僕はすべてが勉強になった。動画なので直接西城さんから自分の仕事に何かを言われるっていうよりは、仕事の現場では無い雑談の中とかで折に触れて「アニメーターってこうなんだよ」とか色々言われた事がものすごく自分の中に入ってきて、それが後々の自分のためになる事がいっぱいあって。さっき言ったようにスタッフルームの中で誰がどう動くのか、誰が何を言って、どういう仕事をしてるのかがホントにすごく勉強になったんですね。『湘爆』以降はスタッフルームっていう形では無くなってしまったので、僕が何か後進の人たちにも教えたいなって思う事もこういう形が取れないとなかなか理解してもらえない事が多いので、ホントに『湘爆』のアニメスタッフルームっていうのがアニメーションを作る上ですごく重要な形だったなあって。僕が東映アニメーションでアニメーターとしてずっと続けていられるのも、やっぱりここで色々学んだ事が役に立ってるっていうのがあります。そういう意味では後進には何か伝えていく事がなかなか難しくて苦労してる現状ですね(苦笑)。

西城ぜひ伝えてください。何かの形でね。

風間今日はこういう貴重なお時間をいただきましてありがとうございます。先程もお話した通り、東映動画に入って、『湘南爆走族』に携わる前はずっと合作担当して、国内作品としては初めてだったんです。それでモチベーションも高く、西沢さん、西城さん、佐々木くんや皆さんと知り合えて、一緒に映像制作できたっていう事は貴重な財産だと思ってるんです。今はもう製作業務から外れて違う職種になってしまいましたけども、西沢さんや西城さんから色んな事を教わって、『湘南爆走族』という作品を通して貴重な経験を若い頃させていただいたなっていうのがあって、非常に感謝しております。すごく良かったなーって思ってます。ありがとうございました。

西城トータルすると12年以上かな、『湘爆』にずっと関わらせていただいて。皆さんはね、勉強になったっていう事を話されたけど、実は僕もすごい勉強になって。という事はあのスタッフルームは、みんな勉強してたって事ね。

(一同)笑

西城『湘爆』ですごい勉強してたっていうのが今分かって。まあいつになってもね、絵描きは勉強だし。特に原動画の人は日常のごく普通の動きを捉えられないと。常に派手な動きばっかりやりがちなんだけども、実は普通に何気なく歩くのが一番難しいとかね。教科書的な歩き方なんて誰でもできるんだけど、そうでない歩き方が自然に描けるのが一流だろうなと思ってるので、そういう普段の動きを常に観察する目を持たないと。基本はオーバーなアクションではなくて、一番おとなしい動き。それを一番大事なものとして考えた方がいいと思ってるんです。あと『湘爆』で一番、僕が気に入ってるものは何かって誰も聞いてくれないんだけど…

(一同)笑

西城聞いてくれないから言うんだけど、実は無いんです(笑)。

(一同)ええー?(爆笑)

西城いや、無いってのはね、エネルギーなんですよ。[1]から最後の[12]まで、僕の中ではずっとハイレベルであるんですよ。なので、ずーっと同じって事はエネルギー的には普通なんですよ。グラフにすると下のレベルからトゲみたいな極の状態があるとこれはすごいエネルギーで、だから「ここが一番気に入った」ってなるでしょ?でも僕はずっと上のレベルなので、特に無いんです(笑)。それはそれとして、『湘爆』を始めた頃にね、まず西沢さんの絵コンテを見たんですよ。すごい衝撃を受けてね。「ああ、この方は絵が全く描けないんだなあ」って(笑)。

一同:爆笑

西城そういう衝撃を受けて「だったら僕がなんとかしなきゃな」って思って。絵が描けないって事は、絵コンテで意図や気持ちは分かるけれど、だけどそこに描いてある大きさとかは的確じゃないので「これはもう、この話を西沢さんがやっておられる間は、僕がちゃんと絵の方は責任を持たないとダメだな」って、そういう変な自覚を持ってたんですよ(笑)。まあこれは冗談で、西沢さんの事は演出家としてとても尊敬しているんですが、本当に『湘爆』でどれが気に入ってるかってのが無いんですよ。すべて自分の最高の力を出したいなっていう気持ちでいたので、すごいやりがいのある仕事でしたよね。それに原作者の先生とたまにこうやってお会いできる機会があって。他の作品では原作者と会わせてくださいって頼んでも、会わせてもらえなかったんですよ。そういう意味では『湘爆』はね、いい先生に当たったなって。「当たりー!」って感じで(笑)。

吉田ありがとうございます。最高の褒め言葉です。

西城本当に良かったです。一生の勉強になりました。

吉田僕は冒頭に言った事がすべてで。アニメの『湘南爆走族』すべてのシリーズの一番のファンは僕だから。この場にいる権利が生まれたのは良かったなと。原作者っていうだけで「やった、特等席だ!(笑)」ってだけですよ。

佐々木もう皆さんと同じで、こんなに贅沢な時間を十何年に渡って過ごさせていただいたのは本当にありがたい事だし、みんなその時々のベストを尽くそうと、今ではもうとても出来ない贅沢な形で、本当に一作一作隅々まで手をかけて作り込んだ事に関しては今でも自信があります。本当に素晴らしいものが残ってると思うので、今度のリプライス版のブルーレイを新しい人たちや若い人たちにも観てほしいし、観れば絶対に通じるものがあると思います。今はデジタルになったり色々ツールは変わったけれど、描こうとしている、人だったりその世界の空気感みたいなものがあるっていう事はやっぱり今も変わらないんだろうと思うんです。そういう中で、先程『湘爆』を作ってる時が“学校”みたいって言ってたけれど、そこで学んできた事ってのは絶対に基本は変わらないから、そこで得たものを伝えていく事がこれからできるようになればいいなと思います。というか、やっていかなきゃいけないなと思いました。

座談会を終えて記念に全員で一枚! 前列右から、加々美高浩氏、西城隆詞氏、吉田聡氏。 後列右から、為我井克美氏、佐々木憲世氏、風間厚徳氏、行信三氏。 後列一番左はVアニメ『湘南爆走族』の2〜12でプロデューサー、3では倉田研次氏と連名で脚本も務めた東映ビデオの高橋尚子氏。

※1 坂本信人:Vアニメ『湘南爆走族』では1~6で美術監督を務める。

※2 大倉雅彦:Vアニメ『湘南爆走族』では1で原画、2で作画監督補佐、3で原画&作画監督補佐、4~6で原画を務める。

※3 『銀河鉄道999』:1979年に公開された劇場アニメ作品。文中の方はVアニメ『湘南爆走族』2〜3で原画を務めた稲野義信。

※4 『パタリロ!』:1982~1983年に放送されたテレビアニメ作品。西沢信孝はチーフディレクターを務める。

※5 『ミラクル・チャクラ』:著・西城隆詞 発行・ギャラクシーブックス

(いずれも敬称略)

『アニメ☆キャラクラブ東久留米教室』

西城隆詞氏が今秋から開催を予定しているアニメ教室。 お問い合わせは西城隆詞 touch_sun_3120@yahoo.co.jpまで!

西城隆詞氏より僕はこの秋から「アニメ☆キャラクラブ」という教室を始めたいと思ってます。独創的なイメージで今までにない発想力を持って、キャラクターやそれに関わるお話を子供や若い方と共に楽しく作って行こうと思ってます。最近はとても素晴らしいキャラクターが世の中にとても多く出まわってます。でもその反面、見分けがつきにくく何かに少し似ていたり、線の書き込みで個性を出そうとしているようなキャラクターも中にはあるようです。
 発明品で言えば、たわしに棒を付けて「棒たわし」というものがあります。これでも立派な発明品なんですが、発明品と言うには何かスッキリしないレベルの違いがありますよね。それと同じように、キャラクターに線を多く書き込んだり影を格好よく沢山つけたりしなくても、明確な個性が出るようなものを作ってもらいたいと思ってます。キャラクター作りの原点に立ち返り、ミッキーマウスやアトムのようにシルエットをひと目見ただけで、個性が際立っているものを作っていければ、ものすごく楽しい「アニメ☆キャラクラブ」になると思います。一年間かけて短いストーリーやキャラクター集、絵コンテの段階まで進める予定です。
 現役のアニメーターからの参加申し込みも既にあるのですが、今回は全くの素人の方を対象に考えてます。子供たちの参加が沢山あるように願っています。すごく楽しみです。

【座談会会場】Tokyo Coffee Roastery Cafe

東京都東久留米市滝山4-1-40

Tel:042-420-1882

https://tokyocoffee.jp

商店街の一角にあり、開放感があって居心地の良い空間でオーガニックコーヒーが楽しめるカフェ。吉田先生もお気に入りのワッフルや手作りのケーキ、キアヌ・サラダ等のフードも絶品。

 

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